糖尿病児死亡事件で無罪主張退ける

■判決のポイント

【殺意があったか】駿君の母親がインスリン投与について被告に伝えたと証言し、被告のメールにも裏付けられている。危険性を認識していたものと認められる。未必の故意による殺意があった。

【被告の影響力】駿君の1型糖尿病を完治できるという被告を信じようと考えた心情は十分理解でき、冷静な判断が鈍った精神状況に陥っており、母親は被告の指示以外の行動を取り難い心理状態に陥った。インスリン不投与に関して、被告と母親は間接正犯、父親が共謀共同正犯の関係にある。

【身勝手な動機】「治療」の報酬などとして金銭を得るなどおよそ理解しがたい身勝手さであり、非難の程度は相応に高い。

【反省の態度】裁判中、不合理な弁解に終始し、被害者の両親を愚弄するなど反省の態度を全く示していない。

■知識があれば

初公判や2日目の公判で退廷を命じられ、その後も不規則発言があった近藤被告。別の男性(48)は「かたくなな人に見えた」とし、男性会社員(24)は「(この日の被告の態度も)納得していないようなしぐさに見えた」と話した。

6日に始まった公判は17日の論告求刑公判まで10回続き、宇都宮市の男性会社員(50)は「1型糖尿病はインスリンを打たなければならず、祈祷によって治すなど一般常識では考えられない。(事件は)正しい知識があれば防げたのでは」と振り返った。

裁判終了後、4人の裁判員が記者会見に出席した。

■動機は権威欲と金銭欲

判決は、権威を守り金銭を得るのが動機だったとして「理解し難い身勝手さ」と指摘した。

検察側は、駿君の両親が近藤被告に23回にわたり計422万円を支払ったとして、「金銭欲を満たすことが主な動機。人の道を外れたおよそ理解しがたい身勝手な犯行動機」と、悪質性を強調した。

その多くはメール。「いつも正しい漢字変換をせず、見張っている死神をあざむくためと言っていた」という。

母親は証人尋問で「(駿君を)うつぶせにさせ、ろうを1滴垂らした。足裏から死神が逃げると言われた」と証言したほか、「ハンバーガーを大量に買ってきて近所に配れ」「本格的なハンバーガー屋がある。20個頼んですぐに食べさせよ」「駿君の足の近くに灯油をおけ」「仏壇の位牌などをおけ」「龍神の書いた紙を駿の足に乗せろ」と、近藤被告から受けた指示内容を証言した。

一方、近藤被告は「糖尿病を治せるなんて軽口はたたいていない」と反論していた。

公判中の証言では、近藤被告に「インスリンを打たなくても、バリアで守られる。おれの命に換えても守ってやる」と言われ、信じるようになったと述べた。

母親は求刑に先立ち、法廷で読み上げられた書面で「血糖値測定の際に、小さな指に何度も針を刺して血を出しているのを見るのは耐えられなかった。被告の名刺を見つけ、連絡すると『簡単に治せる』と返事があり、不安な気持ちが晴れ渡っていた」と振り返った。

インスリンを定期的に投与しなければならなかった駿君。

弁護側は「被告は治療が正しいと信じていた」と殺意を否認してきたが、判決は、近藤被告の「治療」を「自分の治療で完治したかのようなことを述べるばかりで、容態の悪さをそのまま放置していたことが認められる」と批判した。

公判では、死亡した今井駿君の母親らの証言によって近藤弘治被告の「治療」の内容が明らかになった。

「治療に入る。水を大コップ、梅干し3個 飲ませ食べさせよ」「これ以上、医師の指導に従うな」-。

 

近藤被告は27年11月、殺人容疑で逮捕された後、鑑定留置を経て、昨年6月に起訴された。駿君の両親は保護責任者遺棄致死容疑で書類送検され、起訴猶予処分となっている。

佐藤裁判長から「東京高等裁判所控訴できます」と返されると、「東京地方裁判所じゃないんですか」と聞き返した。佐藤裁判長が「以上です」と答え、閉廷しても、近藤被告はなかなか椅子から立ち上がろうとしなかった。

最後に「弁明はできないのですか」と発言。

近藤被告は判決文が読み上げられている途中、手や首を左右に振ったり、天を仰いだりしていた。

駿君の両親は弁護士を通して「裁判は終わりましたが、私たちはこれからも息子の冥福を祈って生活していこうと思います」とコメントした。

被告とは母親が間接正犯、父親が共謀共同正犯の関係にあるとした。

一方で半信半疑だった父親は病院に連れて行くなどの行動が可能だったと指摘。

弁護側は「投与中止を選択したのは両親」と無罪を主張していたが、判決は母親が被告を信じ切り、指示以外の行動を取り難い状態だったと認めた。

佐藤基(もとい)裁判長は「駿君は死亡前の約20日間、徐々に衰弱し、母親の目前で死亡しており、犯行態様が残酷」と述べ、近藤被告が両親に指示してインスリン投与を中止させたとし、危険性を認識していた未必の故意による殺意を認定した。

1型糖尿病だった宇都宮市の小学2年、今井駿君=当時(7)=のインスリン投与を中止させて衰弱死させた事件で殺人罪に問われ、24日、宇都宮地裁での判決公判では懲役14年6月(求刑懲役15年)の判決が言い渡された。